池松合宿

N響からニュージーランド響を経て現在都響という少し面白い経歴を持つコントラバス奏者の池松くんが毎年のように主催している合宿に参加して来た。
コントラバスの合宿に何故?と思われる方もいると思うので簡単に説明したいと思う。

この合宿はコントラバスのオーケストラでの弾き方の全てを学ぶもので、バイオリン2本、ビオラ、そしてチェロの弦楽四重奏がオーケストラの曲を演奏し、その弦楽四重奏と共にコントラバスの合宿参加者がコントラバスのオーケストラのパートを演奏する。
それを池松くんが音色からタイミング、音の質、音程、弾き方まで全てに渡って指導するというもの。
もちろんカルテットのメンバーはみんなプロのオーケストラで働いている人間なので、そのカルテットのメンバーからの助言もあり、こう弾いてくれると僕らは上手く行く、という様な事を言いながら進めていくという合宿。

それをかなり前から彼はやっていて、以前にも行った事があったけど、最近はなかなか予定が合わずに僕は久しぶりの参加となった。

コントラバスの生徒さんは途中で帰ったり途中から参加したりと入れ替わりもあるけれど、15人ほど参加してたと思う。
参加してた生徒さん達は大学生、卒業してフリーで働く奏者からプロのオーケストラで働く奏者まで様々なコントラバス奏者が集まる。これは毎回の事だ。

勉強する曲は例えば、チャイコフスキーの弦楽セレナードやロココバリエーションの第3バリエーションのコントラバスがずっとピチカートをする所、ドボルザークの新世界や弦楽セレナード、ブルックナーの7番、ダフニスとクロエ、ブラームスの3番やピアノコンチェルトの2番、ベートーベンの4番等々、一体何曲やった事か。

参加してるバス弾き達は自分が出来ない事、わからない事を次々と質問してどんどん本質に迫って行く。
その都度池松くんが助言したり教えたり弾いたり、カルテットのメンバーが想い想いの意見を言う。
とは言え、僕も当たり前と思ってた事と違う事を弾くバス弾きがいると、それが間違っているとは思わない。
そういう考え方もあるのかと逆に教えられる。
どちらにとってもハッピーな合宿なんだ。

全てが終わり、カルテットのメンバーから一言ずつ感想を言った。
参加者全員へのエールはもちろんの事、4人から出たのは感謝の言葉だった。


最後に池松くんが感想を言った。
「このひろやすも、俺も学生時代ホントにダメ人間だった。音楽的な基礎なんか全くなかったし、本当にどうしようもない楽器弾きだった。だから俺もひろやすもプライドがない。とにかく「なんであいつあんな音が出せるんだ?」「なんでこんなに弾けるんだ?」っていつも探してた。上手くなる方法をね。俺は今が一番上手いと思ってる。70歳になったら70歳の時が一番上手く弾けると信じてる。それは俺もひろやすもホントにダメだったから、あとは上に行くだけなんだ。だから今でも上手くなれると信じてる。君たちは俺やこいつの学生時代のレベルをとっくに超えてる。合宿ではその弾き方は良い悪いと言ったけど、俺より良い部分を必ずこの全員が持ってる。だから良いバス弾きになれ」

感動したよ。

池松とは大学が閉まる夜10時30分の15分前から毎日ロッシーニのチェロとコントラバスの二重奏曲を一回必ず合わせてから学校を出るという生活を半年以上続けた。
そんな若き日の自分と池松の姿と、今回の合宿の参加者とをダブらせて今格闘してる彼らを羨ましく思った。無我夢中な人間は本当に美しい。そして尊い
それを思い出せてくれて、これからの10年、20年先をまた目指そうと思った。



ありがとう、池松。