憶う秋

今年の松本ほど、自分の人生を考えた事もないと思う。
親友にも相談したし、世界の原田禎夫さんにも相談させて頂いた。
そして二人からは答えを頂いたけど、それは完全に一致していた。
そろそろ僕も決断しなきゃいけない時も来るのだろう。
それがどんな形かは、これから細部に渡って考える事になる。



小澤総監督の体調を考慮してブラームスの4番のシンフォニーからベートーベンの2番に曲目は変更になった。
その前に小澤さんとアルゲリッチさんのベートーベンの合唱幻想曲は今まで経験した事ない曲となって僕を直撃した。シンフォニーの2番もそうだった。
ひょっとして、僕はこのスタイルの演奏が一番ぴったりくるんだなと確信した。
小澤さんのスタイルでもあり、サイトウキネンオーケストラのスタイルが。



僕にもいろんな変遷があり、バロックオーケストラに参加したり、バロックの弾き方を探った時期もある。
それはもちろん勉強になったけれど「ここの音楽に僕は戻って来たんだな」と強く思ったのが今年の松本のフェスティバルだった。ファビオ・ルイージマーラーの5番も言うに及ばず、やはりあの様な音楽に僕は心を打たれるし、感動する。お客様の賛否は僕はよくわからないけど、メッセージをお見せ出来る演奏がやはり必要なんだなと。お客様だけのみならず、演奏している自分にもメッセージが来る、こんな体験はそうある事じゃない。



僕の好む音楽は実は時代遅れなのかもしれない。
僕が弾く音楽は今の時代とはマッチしていない。
僕はそれは仕方がないと今回思った。
育った環境から教えられた音楽が違うのだから。
そんな事もあり、ずっと自問自答して来た事が言葉となって二人の素晴らしい音楽家に吐露したんだと思う。
それは今後の生き方までを含めて。


必要とされているのかどうかは自分で判断したいと思う。
そして残り人生、キャリアの終わりまでの事をそろそろ準備する時が来たのかもしれない。
松本に集うあの凄い人達の演奏や生き方は本当に考えさせられるし、勇気をもらえるのだ。
感謝と言うには軽すぎるけれど、多くの事をボストンバッグに詰めて東京に戻った。