マーラーの5番

28日にファビオ・ルイージさんの指揮でハイドンの「熊」、マーラーの5番のシンフォニーを演奏した。
僕にとっては生涯忘れる事の出来ないコンサートとなった。
その演奏に対しての感想や評価はいろいろあるとは思うけれど、今後僕の人生に於いてこれ以上のマーラーの5番を体験できる事はないんじゃないかとすら思う程の凄い演奏だったように思う。
いや、マーラーだけではなく、ハイドンの「熊」も。



これはあくまでも僕個人の感想ではあるけれど、世の中には音楽的才能を身に纏って生まれてくる、或は育った人はいっぱいいるけど、楽譜から沸き立つものを再現していく指揮者って一体どれほどいるんだろうと思った。
もちろん僕は今話題のペトレンコさんで弾いた事もないし、知らない指揮者の方がむしろ多い。
そんな中、世界のオーケストラで弾く人達が集まるこの松本でのフェスティバルでは、そんな話を聞くまたとない期間だと思っているし、現にヨーロッパ、アメリカでの指揮者事情を知る絶好の場ではある。
多くの人に多くの話しを聞き、僕の頭の中でタイプや位置づけがカテゴライズされて行く。
そんな事を語る何十人の人達も、セイジ・オザワという特別な存在の為に来日している。



このフェスティバルのシニア・ディレクターの堀伝さんは僕にこう呟いた。
「斎藤先生はこんな演奏や音を夢見てたんだろうな。これを聴かせてあげたかったな」と。
斎藤先生が多くの種を撒き、多くの胞子が海外へと飛んだ。
そしてその胞子達は見事に実り、その後あらゆる事を経験された胞子達は、その中心的な存在の小澤さんと共に日本に一時帰国して松本で種を撒き始め、20年以上の月日をかけて、その発信地である松本、そして種を撒いて稲を刈るまでの事を毎年やって来た。


僕はその恩恵を今受けているだけに過ぎない。
感謝しかない。
僕がこれからする事は、それを後の人に伝える事なんだと思う。
僕にはスター性もないし、派手な活躍も出来ない。
でも、自分の役割は40代を過ごして来てようやくわかって来た。
もちろん自分を少しでも高める努力を惜しんではならないと思うし、その胞子達から学んだ事、
伝えられた事を伝えなきゃいけないと思ってる。
それは音楽のみならず、音楽に対する姿勢やが楽譜に対する尊敬の念、そして楽器を弾く事への飽くなき挑戦を。


そんな人達の中で演奏させてもらえる事には本当に感謝すると同時に誇りにも思う。
でもこの想いは自分で享受しているだけでは僕がここにいる必要なんてない。
世界の1流オーケストラで働いていなくても、伝える事はできる。
ここにいる人達の日々の努力がどれほど凄い事なのかも含めて。
そういう凄まじい努力をされている方々を集めてそれを継続してきた小澤さんの気迫と信念には頭が下がる。


そしてその皆さんがファビオさんのあの素晴らしい人間と音楽を信頼したからこそあんな凄いコンサートが生まれたんだと思う。