いつもの様に松本での生活を楽しんでいる。
数年前にこの松本に来る直前に首を痛め、歩けない程であった事を昨日の事の様に思い出す。
ここまで歩くのが精一杯だったなとか、ほとんどベッドに横たわっていたなとか。その恐怖が蘇る事もあり、基本雨が降っていなければ4キロ歩く。途中ジョギングにもするけど、基本ウォーキング。



小澤総監督の直前の骨折によるオペラ公演の降板というショッキングなニュースを引きずりながら松本には来たけれど、なにより小澤さんのショックは僕の何倍もあるだろうし、総監督がいない中でのスタッフの大変さや奮闘ぶりには本当に頭が下がる。僕はいつもの様に目の前にある音楽にひたすら純粋に対峙するだけでいいのだから。お客様にとにかくいい音楽を届けられるオーケストラの一員として全身全霊を傾けるだけだと思ってる。



さすが松本は朝夕は東京や直前までいた京都に比べ涼しい。そして暑い日と涼しい日の差が激しくもある。
体調を崩すプレイヤーもいる。毎年オペラのリハーサルを続けているとその涼しさと暑さ、そして夕方の冷え具合に思わず季節を忘れてしまう。
でも自然の生き物はすごいものだ。
コンサートホールの楽屋口から夕方出て来ると、ホントにたくさんのトンボが舞っていた。
(秋かぁ)
と思いながらホテルに戻ったけれど、暦は秋だもんな。



自然と共存するという事から離れた生活を続けてきたばかりに、旬も忘れ、季節感も「異常気象」という言葉に乗せられ異常だ異常だと言ってるうちに季節が変わっているというなんとも鈍感な人間に僕はなってしまった。
マスコミの何かあるとすぐに「異常気象」だの一言でひと騒ぎして終わってしまうこの日本で、トンボはちゃんとその時期に顔を見せてくれて舞っている。



音楽の事での刺激や感動もさることながら、ここでの一ヶ月近い生活は、そんな事をいつも考えさせてくれるし、どんなに酷暑でもかき氷を食べて野球をして、夕立、ひどい雷雨があったらすぐに家に戻るというシンプルに天候とともに生きていた事の頃を思い出させてくれる。



「長い仕事ですから、これでも飲んで身体に気をつけて下さい」と美味しいリンゴやぶどう、桃のジュースをホテルに置いていってくださる友人もいる。その自然と人と人との繋がりの有り難さや素晴らしさを毎年松本で学ばせてもらってるし、思い出させてもらっている。
思い出すのではなく、いい加減覚えろと自分に言いながらこれを書いている。