レストランで思った事

「グルメ」
という言葉を聞くと、とある地方でその地元でよくお世話になっている方に和食に連れて行ってもらった時の事を思い出す。
最後に白米とお味噌汁が出て来て普通に食べていると、
その方が
「お、新米だなぁ。そんな季節かぁ」とおっしゃり、お店の方に
「いつから新米になったの?」
と聞いていた。お店の方は
「一昨日からです。バレましたか」
とおっしゃっていた。


こう言う方を「グルメ」だと定義したい。
僕は比較して食べれば何か違いがわかるのかも知れないけれど、普通に出されたらわからない。
お蕎麦も新蕎麦を出されても僕にはわからない。
僕は全く「グルメ」ではないにしても、やはり自分にとって美味しい物を食べたいとは思っている。
でもその期待とは裏腹にがっかりなお店に入ってしまう事も多々ある。
先日も京都でそんなお店に入ってしまい、食べながら思った事がある。
結局、シェフの腕や技術で一番必要な事は、美味しい物を「美味しい」と感じる舌であり、その舌で美味しい物を沢山知っている事なのかな?と思った。どんな料理人も最初は素人であり、初心者であった筈だ。
料理人にも上には上があり、その自分より上の物を常に食べ続け、この味をなんとか出せない物か?と精進を続けているシェフがどんどん素晴らしい食事を提供する様になるんだろうなと。


それは音楽家も一緒で、素晴らしい演奏を聴く事がないとそこで成長は止まる。
常に素晴らしい演奏を聴かないと、上には絶対に行けないんだと思った。
YouTubeで聴く事は悪い事ではないけれど、やっぱりコンサート会場に足を運んでホールでの音を聴かないとダメだと信じてる。自分の生徒さんなんかに「誰かの演奏聴いた?」と聞くと「はいYouTubeで何人か見ました」という生徒さんが結構いる。
しかも気になるのが「見た」という言葉だ。
最高に良いのはもちろんホールで聴く事だけど、せめてCDを聴いて欲しい。そしてどんな響きの音なのか、
どんな和声感なのか、それを頭の中で想像してそして考えて欲しい。
欲しい、と言ってもそれは僕も同じだ。
人の演奏を聴かないと成長は止まる。残念ながら絶対に成長はない。
そして「素晴らしい演奏」を「素晴らしい」と言える耳を持たないといけないと、当然の事ながら自戒を込めてそう思った。
好みは色々あるだろう。でもプロの演奏家になるんだったら、こんな所まで緻密にやっているのかと思えない限り上達はないだろうなぁ。
プロはホールでほとんど演奏するんだから、ホールで聴かないと。


先日神奈川フィルでトロンボーンのオーディションがあった。
団員のほとんどはコンクールの様に会場で聴いていた訳だけど、トランペットの方々はオーディションを受ける方々と同じ方向を向いて、つまり会場の僕らの方を向いて聴いて審査していた。
同じステージに立ちもし入団した暁には「隣同士で演奏する事になるのだから、マウスピースの発音や、客席に飛ぶ音のスピード感や音の抜け具合はこの方向を向いて聴かないとわからない」と彼らは言っていた。
やはりステージでの音を知ってそれを目指して若い方々は勉強して欲しいと思う。


とにかく良い物を聴く事がなにより大事なんだと思う。
そんな事を思いながら半分ぐらい残して店を出た。