ファルスタッフを終えて

僕はファビオ・ルイージさんという指揮者の元で演奏した事は初めてだった。
もちろん有名な指揮者と言う事は知っていたし、素晴らしいという話もよく聞いていた。
その素晴らしさがこういう事だったのかと知れた事は嬉しいし、またその素晴らしさの中で演奏出来た事は幸せな事だった。
僕の所属するオーケストラはシンフォニーオーケストラで、オペラを中心に活動している訳でもないし、この有名なヴェルディのオペラ「ファルスタッフ」も弾くのは僕にとって初めての経験だった。
だから偉そうにオペラの事、オペラを振る指揮者の事を語る事は失礼かも知れないけれど、
音楽をとにかく純粋に表現した上での歌、お芝居という一瞬簡素に見えて、なかなか到達出来ない場所にファビオ・ルイージさんに連れて行ってもらった気がする。
それは音楽を演奏する人間にとって必ず果敢にもチャレンジしなきゃいけないゾーンである事は多くの音楽家は思う事だと思う。
虚飾がなくひたすら譜面に対して真摯な態度。
これはよく言われる「あっさりとした演奏」とか「熱くない演奏」では全くない。
楽譜やテキストであるイタリア語から読み取る色合いや温度を見事に管理した上での表現だ。
それに徹する事の難しさ、そしてそれを総合芸術としてのオペラで昇華させるファビオ・ルイージさんの凄みに世界で活躍できる指揮者の資格はなんであるかを教えられた。

毎回素晴らしい演奏会だったと思うけれど、最後の6重唱のフーガをまるで嬉遊曲の様に演奏するオケも凄いけれど、「人生は全て冗談だ」というヴェルディの遺言を本当にスマートに言い切る音楽を作り上げる現場にいられた事に感謝したい。

小澤総監督のリハーサルも始まったけれど、これがまた。。。。。
そこまで行ってしまわれたんですか!
とついつい唸ってしまう程の指揮ぶり。
円熟という言葉が陳腐な言葉に思えてならないぐらい、今の小澤総監督のいる世界は凄い。

確かにファビオ・ルイージさんと小澤総監督はタイプが違うのかもしれない。
年齢だって違う。
でもタイプが違うってどうでもいいことだと思う。
もはや「いい」「悪い」ではない次元なんだよね。
両方の凄さを感じられている事がまだまだ僕も吸収出来るだけの余力があるんだと嬉しく思う。
そして表現者としてお二人の違った山の登り方を経験させてもらっている幸せを噛み締めている。