松本 5

今年もあと4ヶ月となった。
この早さはどうよ。
筒井康隆さんの小説だと、この先急流になっていて、滝から落ちるときが人生の終わりだという事だけど、段々現実味を帯びて来た。
高校の頃その小説を読んだときはただヘラヘラ笑って済んでいたというのに。

この松本が終わるとすぐに神奈川フィルの定期演奏会。去年まで副指揮者を務めていた伊藤翔くんの定期演奏会デビュー。
世界的にも30代の指揮者が主要なオーケストラのポストに就く事が当たり前の時代になって来ているし、日本の若い指揮者もそこにどんどん名乗りを上げて欲しいと思っている。伊藤翔くんがどんなブラームスの2番に導いてくれるのか楽しみにしている。

火刑台上のジャンヌ・ダルクを指揮したオペラデビューの山田一樹さんは、こんな僕が語るのは僭越だし失礼だけど、最初に出逢った時、そして2年前のサイトウキネンでのベートーベンの7番、そして今回と如実に素晴らしい指揮者に成長を遂げている。今回彼と少し話す機会があり「いいオーケストラの響きを聴く事がヨーロッパで過ごす意味なの?」と聞いてみたら「もちろんスコアを読む事もそうでしょうけど、今はそういうあらゆる響きを身体で浴びている状態がいい事なんだと思います」とおっしゃっていた。これから振る予定のオーケストラの名前を見ると凄い名門ばかり。浴びて浴びてそれを血や肉にして大きな指揮者になって欲しいなと思います。


そんな人の事を心配する余裕が実はなく、10月にベートーベンのトリプルコンチェルトが待っている。松本でじっくり勉強する筈だったのにあの首のおかげで全く出遅れている。トリプルコンチェルトは3度目だけど、前の2回は紀元前に弾いたというぐらい昔だ。
初めてのチャレンジという気持ちでこの一ヶ月ちょっと頑張りたい。
その時の指揮者が清水だいき君。
天才バイオリン弾きだったが、指の怪我が元で最近は指揮活動をしている。
大好きな人間だ。そして尊敬している。
彼と同じ舞台を踏める事は大変な喜び。
彼にも素晴らしい指揮者になって欲しい。人間があれだけ素晴らしいし、音楽的な素養や才能に満ち溢れた人なんだから。