レコーディング終了

水戸芸術館でのモーツアルトのバイオリン協奏曲4番、5番のレコーディングはめでたく終了した。
矢部くんのソロはCDを聴いて頂ければいかに美音で素晴らしい音楽かはすぐにわかって頂けると思いますから、ここには詳しく書きません。
秋以降の発売となるので楽しみにして頂きたいと思います。


そのレコーディングの最中、水戸芸術館の館長であった吉田秀和さんの訃報に接した。矢部くんと学生時代貪る様に愛読して、未だに開く事がある名著「私の好きな曲」などの本の事でしみじみと彼とその話をすることとなった。ホテルの部屋ではご冥福を祈るとともに、いろんな芸術を教えて頂いた吉田秀和さんにありがとうございましたと何度も心の中で呟いた。


19歳の時に作られたこのバイオリン協奏曲だけど、19歳というのは実際まだ僕は信じられない。モーツアルトのバイオリン協奏曲の中でも弾かれる頻度も高く、僕も何度この曲を伴奏したかわからないけど、何度弾いても新たなすごさを発見し、驚愕する。
ホルンのラの音の1音があるだけでなんでこんなに素晴らしい光景になるんだと驚き、ベートーベンはモチーフを何度も何度も使う精神力を我々に教えるけど、モーツアルトもさりげなく全編に渡りモチーフはびっしり散りばめられている。
それが意外に気付かない部分も多々あり、この年齢になるまで知らなかった構造を発見する貴重な機会だった。

この今回のレコーディングのプレイヤー達の凄さには感嘆するしかなかった。
当たり前の事だけど、1音で全て台無しになるプレッシャーがあったし、プレイバックを聴くとヨーロッパの瑞々しい響きがしたし、自分の未熟な部分も思い知った。

これを今後の課題にしなければあまりにもったいないし、課題に出来なければチェロなんて辞めた方がいい。

オーボエの広田さんが帰りがけに「こんなに沢山書き込んだ譜面だから記念に持って帰りたい」とおっしゃっていた。ある意味この3日間に生まれた我々の宝物だと思う。僕らは確実に各々多くの事を考え、多くのプレイバックを聴き、そして相乗効果で自分の力以上のステージに行けたのではないかと信じている。
そしてそんなアンサンブルの上で緻密な素晴らしいソロを弾いた矢部くんに心から拍手をしたいと思う。

この室内オーケストラは当然、活動して行く事になると思う。それはメンバー全員が望む事でもあるし、これだけで終わるにはあまりにもったいないと思う。

名前や公演が決まったらまたここに告知して行きたいと思うし、1度聴いて頂きたいと思う。

大変タフなレコーディングではあったけど、全く僕は疲れていない気がするし、逆に元気になった。先ほど帰京したけど、夜はまたチェロの練習をしようと思う。