モーツアルト「リンツ」

モーツァルトはシンフォニーの36番「リンツ」を4日間で書いたという事らしい。僕はこの曲が相当好きだ。
全編長調で明るいのに何故か物悲しさを伴っている。


今はもう日本に帰国して8年にもなる友人の鈴木学くんが、リンツのオーケストラに入った時、彼は栓抜きやナイフ、コルク抜きなどが一緒くたになったスイス製のお土産をくれて、冗談で「寂しくなったらこれを見て僕を思い出して欲しい」とのたまっていた。
それは引き出しの奥にしまわれたままで、彼がリンツにいる間は見る事はなかった。彼が帰国した時「そういえばリンツのオケに入った時にあげたナイフは使ってる?」と聞かれ、慌てて探し出した。もちろんあったけど、1度も使用していなかった。

彼を送り出す会はボーリングだった。学くん、ビオラの井野返くん、矢部くん、そして僕の4人だった。
まあそれは良いとしよう。

彼がオーストリアに旅立った後、このリンツを毎日聴いていた期間があった。
モーツアルトの曲は長調の曲は哀しいのだよ。逆に短調の曲は怒りなんだよなぁ。
友人がヨーロッパに旅立った時にずっと聴いていた為かこの曲は僕の中では旅立ちの曲になっている。そして屈託の無さが逆に哀しい気分にする。
春は旅立ちとも言われている。日本の様に卒業、入学、就職等々が全て春にあるからそう言われるのかもしれないけど、僕の中では春になるとこの「リンツ」という名曲が必ず頭をよぎる。

明後日そのリンツを演奏する。
4楽章の最初の4小節間の「ド」の音の八分音符は極度に難しい。なぜなら、5小節6小節の「シ」の二分音符のスピード感を八分音符で出さなければならないからだ。まぁあまり指揮者には興味はない事のようだが、楽器を弾く事はどんなに小さな事でも困難が伴う。