MAP’Sでの仕事

昨夜までMAP'Sのレコーディングが津田ホールでありました。
一枚目のCDは3月28日にリリースされましたが、今年中には今回のCDはリリースされると思います。

よくインタビューなどで聞かれる事の1つに「チェロの首席って何ですか?」というものがあります。この質問には1つの答えは存在しないと考えます。その仕事仕事によって要素が変わりますし、メンバーにもよるし、オーケストラの規模にもよります。
神奈川フィル、サイトウキネン、ジャパン・チェンバーオーケストラ、今回のMAP'Sと全て首席の仕事は違います。細かく言えば同じ神奈川フィルでも指揮者によっても内容はガラリと変わります。


今回はオーケストラMAP'Sでのチェロの首席の仕事を書きたいと思います。


オーケストラMAP'Sの指揮者は宮本文昭さん、コンサートマスターは矢部くんとこれは不動であります。メンバーもほぼ不動。

僕は当然の事ながら指揮者の宮本さんとコンサートマスターの矢部くん、そして楽譜と3つを同時に見ながら演奏する事が大前提となります。チェロは3人、このチェロのパートをまとめるという仕事はほぼしていません。
全て任せております。1回目例え何かずれたとしても、当の本人が気付いている事はわかっていますし、2回目には修正されていますし。今回はレーコーディングだったと言う事もあり、プレイバックを聴いた後には「こうしてみるか」という事は毎回のように話し合いましたが、基本は信頼。

基本は3つを見ながらチェロを弾いている訳ですが、それがコンサートマスターからセカンドバイオリン、ビオラ、と見る所は入れ替わったりしますが、指揮者が視野から消える事はありません。その中で耳はというと、全体の事は俯瞰的に聴いてはいますが、1番注意を払って聴いているのがコントラバスです。
チェロとコントラバスは楽譜上は違いますが、多くの部分で楽譜上の使命は重なります。なので、1番相談しながらしているパートはコントラバスです。
コントラバスとチェロの方向が少しでもずれると、これはオーケストラ全体に非常に迷惑がかかりますし、演奏も貧弱になります。

MAP'Sのコントラバス山本修さん。彼とは20年以上の付き合いになります。
僕が都響を離れた後も、何かと室内楽やアンサンブル等で一緒に仕事をしてきました。その仕事仕事で彼とはいろいろ話し合い議論を深めた。20年議論を深めたからと言って出来るほど音楽は甘くないし簡単じゃないんだよなぁ。
それは矢部くんにしたってそうです。
でも、その議論をしてきた末に我々が手にした物は共通の言語という物。
例えばヘ長調のハーモニーでコントラバスがFの主音、チェロが第5音のCの音を出す瞬間、僕は修さんがどういうイメージで音を出すか、想像する事が出来る。多分修さんも僕が作ろうとするCのイメージは想像していると思う。それで音が出た瞬間、想像通りのFの音の音色や強さ、質感が聴こえると(そりゃそうだよな)と心の中で納得する。でも凄い微妙な違いを発見した時、迷わず質問をしに行く。そうすると彼もそういう顔をしている。これが共通の言語という事です。
修さんは50歳になった。そして怒濤の2枚、ソロのCDをリリースした。その記念の全国ツアーをやっている。今度の土曜日、4月7日に逗子文化プラザのなぎさホールで19時からそのツアーを締めくくる最後のリサイタルがある。逗子・葉山は修さんの生まれ育った街だ。僕は東京を離れている為に行けないけど、行きたかったな。
そんな彼との録音の仕事で、再びいろんな事を話したし勉強になった。楽しかった。

いわゆるMAP'Sでの仕事は、まとめると
1、「目」は宮本さんと矢部くんと楽譜を同時に見る。
2、「耳」は全体との進行を聴きながらコントラバスの音をずっと聴き続けている。
3、「鼻」は息を吸う。
そして「頭」は1、2を平行してやりながら、何処にくさびを打ち込むか、どう線路を敷くかを演奏でしめしていく、という事が僕のMAP'Sでの仕事の基本です。だから、意外に自分の音は聴けていないという事が真実なのかもしれません。