グルダのブラスとチェロの為の協奏曲

大学の2年生だったと記憶しています。先輩から「これ聴いた?」と言われ、当時僕が欲しくてしょうがなかった「ウォークマン・プロフェッショナル」という機械でこの曲を聴かせてもらったのが最初の出会いでした。
その時は正直(なんだこれ?しかも相当難しそうだし、こんな曲を弾く奴がいるんだな)と思いましたよ。
当時の僕の音楽や演奏家に対する無知加減は相当なものでしたから、作曲したグルダという巨匠のピアニストの事も、シフという凄いチェリストの事も知りませんでした。
でもなんか妙なロック調のフレーズが頭に残った事は言うまでも無く、師匠に
グルダのチェロコンチェルトの録音を聴いたのですが」
と話すと師匠は、
「興味があるのか?君はあの曲をやる前にまだまだやらなきゃいけない曲やエチュードがある。特に君がわざわざやらなくても世の中には影響無い」
といつもの皮肉と笑いを交えながら師匠は言ったものです。

それから25年間。もちろん弾く事もなかったですし、生で聴く機会も無かったです。カプソンが数年前に新日フィルでこのグルダを演奏した時はどうしても行けませんでしたし、とにかくあまり演奏される機会はありませんから未だに聴いた事はありません。

『下野さんの希望はグルダですが』と事務局から連絡を頂いた時は、25年前の記憶を便りに「おうおう、あの曲かぁ、難しそうな感じはしてたけど練習すれば」と簡単に考えて『はいはい、大丈夫ですが』と答えましたよ、私は。はい。確かにそう答えましたってば。

楽譜を取り寄せてから僕の撃沈・沈没生活は始りました。指使いもなく、どうやって弾くのかもわからず、事細かに書いてある作曲者の指示がドイツ語ですし、途方に暮れました。何処に行くのにもグルダの譜面だけは持って出掛けていましたね。

まあ今は亡き師匠に対しては「やる事はやった、やらなきゃいけない曲もやった」とは到底言えるはずもないけれど、この聴く機会ですら皆無であるこの曲をやる機会を与えて下さった下野さんや、オーケストラには感謝します。
我がオーケストラのブラス・木管は素晴らしい役者達がそろっていますから、リハーサルをしてても楽しいですよ。これで本番が無ければ最高なのになと思いながら今日は弾いていました。

ゲストで来てくれたギターの伊丹さん、ウッドベースの齋藤順さんは共に友人でありながら僕が尊敬するジャズのアーティスト。心良く引き受けて下さった事にも心から感謝です。ドラムの平尾さん、伊丹さん、齋藤さんのあのリズムのセットは必聴かと思われます。

なんか楽しかったよな、という演奏ができたら。
そんな夢を見つつ、もう一夜苦しみながら時を過ごそうかと思っています。