マイ・ヒーロー

何人かの方に
仮面ライダーと一緒に弾いてたでしょ?見たよ」
と言われた。
2ヶ月ぐらい前に収録した「題名のない音楽会」がオンエアされたみたいだ。
確かヒーロー編隊物というテーマで、仮面ライダーが登場してそこで楽器を弾いた事も良く覚えている。
しかも、僕はその時(やっとあなたにお会いする事が叶いました)と本物の仮面ライダーに会えた事を心から喜んだ事をここに告白したい。
何せ、テレビで最初に僕が見たヒーローの1人であったことは間違いのない事実ですから。

最初に見たと言えば、僕が生まれて初めて「チェロ協奏曲」という物を生で聴いたのがドボルザークのチェロ協奏曲だった。ソリストは上村昇さん。彼は仮面ライダー同様、僕の中では最初に見たヒーローであるし言わずと知れた日本の宝である。
その上村さんが昨夜京響定期演奏会で「ドン・キホーテ」を演奏された。
どんな部分でも1音1音を極上の絨毯に仕立て上げ、それでいて大きなフレーズ、音楽を構築していた。丁度去年の今頃、全く同じ曲を弾いた僕はまさしく若造に過ぎず、上村さんの背中から見え隠れする楽曲への苦悶と葛藤、さらには楽曲への愛情が僕にはまだまだ浅かったと言わざるを得ないなぁ。

僕は直接上村さんに習った事はないけど、音楽祭等で本当に親切にして頂いているし、その度に彼の生き様や音楽に対しての恐ろしいまでの愛情を教えられた。
二言目には「僕が悪かった、ごめんね、もうちょっと練習しておくから」と。
「ちょちょちょ、ちょっと待った、そんな事あらへんがな」。困るんですよ、この言葉を上村さんに先に言われると。
二人で居酒屋に入ると良く「バッハ論」で一晩終わる。それがまた、たまらなく僕には幸せな時間だったりする。

そんなマイ・ヒーローが昨夜別れる時に僕に言った緩〜い関西弁での言葉がある。
「忙しい中、京都まで来てくれて有り難うね。僕が弾くときはコンサートなんか来んでもええよ。ましてや伴奏なんか言語道断や。裕康は余分な時間を使わずに自分の事に邁進してよ、僕も余分な時間は使わないから、ほっといてくれればええから」

意味わからんけどなんか嬉しい言葉だったな。
なにせ素晴らしい人間だから惚れるのだ。

でもね、上村さん、ヒーローに会いたいのはガキの本能ですし、あなたの演奏を伴奏したり、聴きに行く事は余分の時間でもなく、自分の大事な時間ですから。
仮面ライダーと違い、あなたは現存するマイ・ヒーローですから。

前回の大野さんのマーラーといい、今回の上村さんのドン・ホーテといい、京都には立て続けに素晴らしい時間を頂戴した。
京響の優しき仲間達にも心から感謝したい。

おおきに。