オーディション

オーケストラによって、本当に様々なオーディションの方法があります。
公募が基本ですが、正確には公募ではないオーケストラもあり、何が1番いい方法なのか、正直わかりません。アメリカなどではカーテン審査と言って、どんな人種か、男女かも分からない様にカーテンの向こう側で演奏して審査する所もあります。

ウィーン・フィルのオーディションを受けた事があるチェロの友人からこんな話を聞きました。
オーディションの数月前に、チェロの首席奏者が開くオーディション受験者の為のセミナーがあるという。それは実際オーディションに出される曲をこってりレッスンされるセミナーなのですが、そこでそのチェロの首席はこう言ったという。

「これから僕たちとひょっとしたら30年も一緒に音楽する人を選ぶんだから、当然どんなに上手でもスタイルが違う人は決して選ぶ事はない」と。

全くその通りだと思う。だから伝統としての音や響き、そして音楽その物が脈々とあのウィーン・フィルの根底を流れているんだと思います。


偉そうですが、僕には僕の選ぶ流儀があります。
僕にはこの一点が大きい。
「この人と一緒に室内楽をしたい」
の一点です。
一緒に演奏したいなと思えば「○」、したくないと思えば「×」です。
もちろんその中には、音色が素晴らしい、作曲家によってのその演奏スタイルを熟知している、音程がいい等々の細かな事はありますが、モーツアルトのシンフォニーを弾いて頂ければ1分でそれらは分かります。弦楽器だったらバッハを弾いて頂ければ30秒も必要ありません。

オーディションはオーケストラが一歩一歩確実にレベルアップする事が出来る唯一のチャンスです。(もちろん指揮者に左右される事も大きいですが)
素晴らしい方を選ぶ事が出来るオーケストラ側の眼力が無ければ、オーケストラの底上げは永遠にありません。


大変僭越ではありますが、これからオーケストラのオーディションに挑戦しようと思っている若い方に一言申し上げたいと思います。
合格するかしないかはオーケストラが決めると思いがちですが、実際決めさせるのは若い方々自身の覚悟と努力だけです。
そしてどんな指揮者にも対応出来る柔軟性は「技術」でしかありません。
もちろん今の時代、何でも弾けたり吹けたりする方は一杯いる事も知っています。
だけど、正しいスタイルで演奏出来る事が最重要だと考えます。個性なんて必要ありません。素晴らしい個性なんて言う物は正しいスタイルを持った人から滲みでるものです。
そして人々を魅了する音、音色を磨いて頂きたいと思っています。
後、これはよくビオラの柳瀬さんが言うのですが、楽譜に書いてある事をまず正確にやっているかどうか、当たり前ですが意外に多くの方が軽んじていると。

まあこれらは完全に自分の事を棚に上げての発言ですから、そこはお許しを。

そんな素敵な若いプレイヤーが神奈川フィルに沢山来て頂ける事を楽しみにしていますし、そういう方々と多く出会いたいと思っています。


オーディションで自分より素晴らしい演奏家を選べる事、それが僕のプライドです。