松本からの手紙 6

ご存じベートーベンの交響曲第5番「運命」。
ハーモニーとモチーフだけでこんな偉大な曲を書いてしまわれた作曲家に、ひれ伏すしかなく、今日も小澤塾の下野さんのリハーサルに行きましたが、驚愕と感動の連続でした。もちろん若い音楽家達の演奏や意欲、下野さんの練習の良さがあっての事だとは思いますが、それにしてもすごい曲です。


ご存じでしょうか?4楽章の曲の終りの最後の長い音の秘密を。
実はこの「運命」まで、シンフォニーで最後長い音で終わる曲はなかったんです。ベートーベンの「運命」が最初です。
ここまではご存じの方もあるかと思いますが、その最後の長く延ばす音、実はトロンボーンだけは短い音で終わりなんです。当然、作曲家の強い意志のもとでそれは書かれていると推察します。


先日の矢部さんの「リヒャルト・シュトラウスには無駄な音がないけど、ベートーベンの音には意味のない音は無い」という名言に続き、出ましたよ、第2弾の名言が。
これは下野さんの言葉で、その何故トロンボーンだけが短いのかについてですが、彼曰く、
トロンボーンはベートーベン以前は宗教的、あるいは聖なる部分にしか使われなかったけど、この運命の最後の音をトロンボーンに延ばして書いてしまうと、宗教的であったり、聖なる部分となってしまうので書かなかった」
という説。


やはり名言というのは「何故だろう」というところからしか出て来ません。そして僕たちの楽譜に対しての態度は常に疑問に思って掘り下げないと一定の自分なりの答えにはたどり着く事はありません。その答えが間違っていようと、それは通る道を自分で作る事であり、絶対に必要な道なんだと思います。


僕が最近ベートーベンのシンフォニーを演奏する時に、すごく気になっていた事があります。
コントラバスはベートーベンの時代にはなかった5弦の楽器がもはや当たり前のようにどのオーケストラにもあり、ベートーベンの記譜より、低い音が出ます。そして実際、ほとんど場合その1オクターブ低い音域で演奏しています。だけど、ほとんどの指揮者が何も言わない事が僕のすごいストレスでした。
それを下野さんにぶつけると、
「僕は絶対に音域は下げない。もし慣例となっているオーケストラでもそれは楽譜の通り弾いて頂いてます」
との答え。よかったなぁ、理解者がいて。


そして名言その3。
その事について下野さんは
戦国自衛隊のようなものでしょう。当時はなかった武器をもって昔に戻って戦争するのと変わりませんよ」と。


名言、これかも紹介していきます。