1992年4月

ブラームスのドッペルコンチェルトを初めて演奏させてもらったのが1992年4月。なんと18年前である。
その時のバイオリンのお相手は矢部達哉さん。今回この曲は自分自身6回目となる。


去年、バイオリンの石田さんとこの曲を演奏する時、あまりに悩んで矢部さんに「出だしのソロが本当にどうしていいのかわからない」と相談した。
答えはシンプルで的を得ていた。
18年前、若くてなんの恐怖もなく、のびのび弾いていた自分が恥ずかしく、そして羨ましい。でももうあの時代に行く事はないし、あの頃の自分は消し去った。
消し去ったと言うより「上書きした」という感じ。


矢部さんの言う様にシンプルにこのブラームスの晩年の名曲を演奏する事は至難の技であるけれど、この曲を名曲としてお届けする事が最大の仕事である。
今年はこの曲を9月と10月にも演奏するけれど、どんどん自分の演奏をシェイプアップして引き締めて行きたい。


時間だけが漫然と進んでしまったという経験は経験とは言わない。
18年の生き方が滲み出る、そんな演奏ができたらいい。
その生き方が薄っぺらいものであれば、そのうち僕は淘汰されるんだろうと思う。


今日のオケ合わせでは自分を見つめて、明日の舞台ではブラームスを見つめたい。