お弟子さんから先生へ

僕がまだ都響にいた頃ですから15年ほど前でしょうか、当時2、3人のチェロのお弟子さんがいました。アマチュアの方がほとんどでしたが、その中で入江たまよさんというOLさんがいました。彼女は「先生、15分遅れます、すみません!」と電話がかかってきたり「明後日のレッスン、どうしても仕事で行けなくなりました」とかとにかく仕事が忙しそうでした。一度彼女に身体は平気なのかと尋ねた事があります。そうしたら彼女は「キューピーコーワゴールドをガリガリ貪る様に食べてますから大丈夫です」と答えたのを良く覚えています。


ある時レッスンで彼女から「先生の書いてくれた指使い、あまりよくありません、だってこれだと弾けないんですよ私」といかにも僕が悪い様に言われ、絶対人のせいにするイタリア人をいっぱい知っていたからか、(こいつイタリア人みたいだな)と思った事があります。
そんな事もあって身体的にも精神的にも疲労困憊の彼女に気分転換でもいいからイタリアに行きなよよ薦めた事があります。まあ気分転換にせよ、語学留学にせよ、どちらにしても入江さんはイタリアに行くべしと。
しかももし留学するなイタリアの「シエナ」という街が良いと言った記憶があります。僕がしばらく勉強していて本当に素晴らしい街だったし、当時知り合った友人が「シエナ大学はイタリア語の標準語を学ぶには最高の大学だよ」と言ってましたし。


しばらくして「イタリアに行って来ます。帰ったらまたレッスンお願いします」と彼女から電話がありました。


そして音信不通


5、6年ぐらい前でしょうか、とある人に「入江さんという方が山本先生に会ったらよろしく伝えてくださいと言ってたよ」と言われ
(おお、帰ってきたんだ、懐かしいぞ! で、今何をしてるんだ?)と思っていました。
語学が不得意な割に語学フェチの僕は、たまにNHKの〜語講座と言うのをなんとなく見ている時があります。その夜はたまたまイタリア語講座でした。その日もぼんやり見ていると、なんと講師が入江さんじゃないですか!たまげましたよそりゃ。今度からは僕が先生と呼ばないといけないなと。

その後彼女から連絡を頂き、コンサートにも来てもらっていますし、メールでのやり取りをさせて頂いておりますが、来年の4月からのイタリア語講座は再び彼女が講師みたいです。ちょっとしたきっかけを僕が作ったのかも知れませんが、昔のお弟子さんが活躍しているのを知る事はすごく嬉しい事です。
世界中で1番心から愛してる国、イタリアの言葉を話すと言うだけでひれ伏しますね。話すだけじゃなく、教えていますからね。
4月からイタリア語の講座のテキストだけは買いますか。
で、復讐しますか。
「入江先生、あなたの教え方では全然話せる様にならないんですけど」
15年の歳月をかけた復讐です。