GEM

僕は20歳の時から同じ人に楽器のメンテナンスをしてもらっている。彼は代官山でGEMという楽器屋さんを経営しています。彼は僕が今まで使った楽器はもちろん全部知っているし、僕の好みの音、好きな調整等すべて把握している。コンサートのほとんども来てくれている。
今日もオーケストラの練習の後、代官山まで行きました、「ちょっと音が詰まる」と言う理由で。「音が詰まる」とはイマイチ伸びがなく、なんか内向きにしか音が響かない状態ですが、これが自分の身体の不調を訴えるのと同じで、なかなか理解してもらえない。しかも僕の感じる「音が詰まる」だから、それを汲み取ってくれないと困ってしまう。でもGEMに行って「ねえ、なんか詰まるけど」の一言で彼は楽器を出してちょこちょこっと何かをいじって「はい、弾いてみて」と僕に楽器を渡す。
僕は楽器を弾いて「ありがと。解消したよ」と。それで終わり。そして彼は「その弾き方だとリスクは高いけど、音は通るからね」と警告も忘れない。
まあ僕のいい部分も悪い癖も全て把握した上での調整に僕は完全に信頼している。2年程前、彼がちょっと入院した時があった。そんな長い日数ではなかったけど、その頃、もの凄く本番が沢山あって、楽器屋に行こうにも行けずに困った事がある。退院後、彼に「少なくとも僕が引退するまで生きててくれないと」とお願いした。
その彼とはそういう関係が仕事での関係。プライベートでは美味しいものを食べに行ったり、僕の重要なゴルフのライバル。彼の方が実力は上だが、たまに勝つから僕が一方的にライバルだと思っているだけ。
彼と1度スコットランドのあの荒涼としたリンクスでゴルフをしようと以前から約束しているけど、なかなか実現出来ない。
来年ぐらいなんとかと思っている。
あのゴルフのエスプリが地面に眠るスコットランドで土を掘る事が出来たら、また一つ僕の夢が実現する事になる。