私の好きな曲

学生時代から評論家の重鎮、吉田秀和さんの「私の好きな曲」という本を愛読しております。
学生時代はそこに書いてある曲はほとんど演奏していないどころか、知らない曲ばかりでした。
あれから20年という月日が経ち、今でも思い出した様にこのぼろぼろになった本を読んでいます。

学生時代、何も考えず面白いと思った部分に鉛筆で線を引っぱってあり、それがまた懐かしくもあります。
その本に書かれている曲もすでに演奏した曲がかなり増えました。
演奏はしていないけど、大好きな曲もあります。
その中で、まだ聴いてもいない曲があります。シューマンの「新緑」(本では はじめての緑)という歌曲です。
ずっと気になっていましたが、未だに演奏は聴いていません。


同じ様に学生時代からこの本の愛読者の親友がいます。名前を矢部達哉といいます。
言わずと知れた日本を代表するヴァイオリン奏者ですが、彼とその本に書いてある曲の事を話すと、彼は「吉田秀和はこう言ってたよ」と本に書いてある通りの文章を暗記で言ったりします。
二人の間で、1度聴いてみたいと言っていた曲がこの「新緑」でした。ということは、お互いまだこの曲を聴いた事がなかったのです、昨日までは。
一昨日、僕はシューマンの楽譜を探し出して、弾けないピアノでこの「新緑」を弾いてみました。
全く弾けませんでしたが、その曲の感想を矢部くんにメールした所、昨日彼はどうやら買ってあったCDをついに聴いたらしく、その感想の長いメールが来ました。
そして、その事に関して、深夜2時半まで往復のメールのやり取りがあり、およそ30通程でしょうか、盛り上がりました。


いい歳して何やってるんだという感じですが、学生時代からの親友とはついついこうなってしまいます。
その演奏者、及び演奏については改めて僕もそのCDを買って聴いてこのブログに書きたいと思いますが、同じ釜の飯を食った仲と言いますが、本当に矢部くんとは一瞬にして10代に頃に戻れます。本当に貴重な存在です。
最近出したバッハの無伴奏チェロ組曲のCDのライナーノートも彼に書いてもらっています。
毎月一回は仕事で一緒になるのですが、5月6月は残念ながら一緒の仕事がありません。
なんか寂しいです。
僕のチェロをガキの頃から今までを良く知っている数少ない友人の一人です。


それに、曲の分析や、演奏の批評を書かせると、吉田秀和さんに負けるとも劣らずの文章を書きます。
その知識はさることながら、視点、感覚は本当にびっくりするぐらい研ぎすまされていて、いつも感心します。


いつか、「私の好きな曲」という本を矢部くんには出して欲しいし、僕もそんな本を書いてみたいと思っています。