幸せだったフォーレのクインテット

吉田秀和さんが「近代ヨーロッパの最高傑作」というこのフォーレの2番のピアノクインテットシューマンのピアノクインテットの演奏会が終わりました。
緊張の東京文化会館の小ホール、しかも満席。

しかし、この最高傑作をこのメンバーで演奏出来るという満足感と、密度の濃いリハーサルのおかげで、メンバー全員が「さて、ステージでは楽しもう」と覚悟を決め、さらにはどうころんだって大丈夫という信頼感と安心感をもってステージに出ました。


短いピアノの前奏からすぐにビオラの鈴木学のソロが始ります、そして僕、そして・・・・重なり合う様に、しかも複雑な転調を本当に美しくあっと言う間に1楽章が終わりました。

この時、全て今日は巧く行くなという手応えをつかみました。
なにか、緊張と言うより、メンバーの学生時代からの信頼と友情、そして尊敬がこのフォーレを弾かせてくれたような感覚で、時にはあまりの曲とメンバーの調和が美しすぎて目頭が熱くなる瞬間までありました。


3楽章では甘美で優雅で果てしなく広がりをみせるハーモニーと苦渋に満ちたフレーズ、メロディにはなにか我々は取り憑かれたように演奏したのであります。
なんて完全に自画自賛ですが、これほどまでにクインテットで静かなる興奮を覚え、メンバーへの信頼、曲への尊敬の念をステージ上で表現出来た事は幸せな時間だったと思います。


打ち上げの時にもそういう話になりまして、学生時代から20年を経て、僕たちは何かを(言葉にもできない、表現する事も不可能な何か)を手に入れたかもしれないな という感想で一致しました。打ち上げはピアノの横山幸雄くんがオーナーを務めるレストランで行われました。

イタリアン・フレンチのレストランでしたが、僕は車なので飲めませんでしたが、素晴らしいワインと横山チョイスの料理の数々に演奏会の満足度がさらにアップした夜となりました。


という訳で、緊張のホールというレッテルから、何かをつかんだホールという風に東京文化会館の印象は変わりました。